【報告】「同志国」への武器無償供与 政府安全保障能力強化支援(OSA)について:今井高樹 日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事

2023年9月4日に行なった研究会での今井高樹さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事)報告の内容を、掲載します。

皆さん、どうもこんにちは。お招きいただきましてありがとうございます。日本国際ボランティアセンターJVCの代表をしております今井です。

私たちの団体はアジア、中東、アフリカで人道支援や開発支援の活動をしながら、イラク戦争やアフガニスタン戦争などを直接的きっかけにしながら、安全保障問題に関わってきています。

私自身はアフリカの南スーダンとスーダンに合計10年間駐在しておりまして、南スーダンはちょうど私が関わっていたときに、自衛隊のPKOが大変な市街戦に巻き込まれ、日本でも大きな国会の論戦になりました。私も国会で報告をしたり、その後の安保法制の違憲訴訟の証人になったりということで関わってきています。

今日はOSA(Official Security Assistance)について話をさせていただきます。私たちのような国際協力NGOがどのように見てきたのかというような文脈でお話を進めさせていただきたいと思います。

日本の国際協力は非軍事でやるということで、外務省の文書からの引用もありますけども、平和国家にとって一番最もふさわしいやり方だということは、外務省自身も、日本政府自身が認めてきた、誇ってきたことです。これはある意味、平和憲法を国際協力という分野で具体化したものと言えるかと思います。

国際協力、政府開発援助については四原則を1990年代以降、今でも一応形としては外務省も堅持していると言っています。この4つのうちの2番目が非軍事原則と言われる軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避。それから3番目も内容的には絡むんですが、こういった原則を持ってきたわけです。これが2010年代の半ば、安倍政権の頃に武器輸出のことも含めて非常に大きく変わってきていると思います。

2015年にこの非軍事原則が大きく緩和をされます。この時に防災とか民生とかが目的であれば、相手国の軍とか軍関係者へのODAの支援というのも解禁をされて、その後ですね、巡視船とか沿岸警備システムのようなものが供与されてきました。

その後具体的にはさまざまな国で、特にやはり東南アジアから南アジアにかけて、これは外務省のホームページに載っている資料ですけれども、船のマークがあるのは、必ずしも船を支援したというわけではなくて、海洋安全保障関連の支援ということなんですが、たくさんですね、こういった相手国の軍にもかかわるような支援をしてきている実績が既にあったわけなんです。

去年ですね、開発協力大綱というODAについての指針となる文書の改定を政府が発表しました。私たちNGOとしては、この非軍事原則がさらに緩和されるのではないかという懸念があったのですが、外務省はこの原則は堅持するということを最初から明言していたんですね。

ある意味ほっとした面もNGOとしてはあったかもしれませんが、しかし、その裏がちゃんとありまして、12月の国家安全保障戦略の中では国際協力の戦略的な活用として、ODAとは別に同志国の安全保障能力・抑止力の向上を目指して、装備品つまり武器の提供や軍事インフラ整備を行う軍が被益者となる協力の枠組みを設けるということで、事実上、非軍事原則は破棄する形でこういったものが政府から出されてきたわけです。

これが今年の4月に政府は安全保障能力強化支援というOSA、オフィシャルセキュリティアシスタンスという名称をつけて、正式に国家安全保障会議で決定をされた。こちらは、外務省が管轄になります。どうして防衛省ではなくて、外務省かというようなことも一つの疑問としてはあるんですけれども、総合外交政策局というところが管轄でやることになっています。

外務省が出している。このOSAに関する資料をウェブサイトで見ることができますけれども、目的については今言った同志国の安全保障能力の向上ということで、資機材つまり武器の提供ですとか、それから軍事インフラをやるということなんですが、これは新たな無償による資金協力ということで、形としてはODAの無償資金協力と同じような手続をとります。

つまり、相手国が武器を発注すると、発注先はもちろん、日本の防衛産業でしょうけれども、それに対して日本が資金を供与する。つまり、その防衛産業の口座に日本政府がお金を振り込むというような形で、武器がその相手国に提供されるといったようなODAと同じような手続を踏むことになります。

協力の対象としては、一応、開発途上国が対象ということで、ウクライナも外務省のカテゴリーでは途上国なので、対象になり得るということは外務省も認めています。OSAの「実施方針」には相手国の民主化の定着とか、基本的人権の尊重の状況を踏まえるといったようなことが書いてあるんですが、これも私たち外務省との話の中で、例えば人権について大変問題があるフィリピンなんかに出せるのですかといったようなことも聞いたんですが、外務省は、最終的には総合的に外交関係二国間関係とかを考慮して判断するということで、そういった人権の問題とか民主化に問題がある国にも出せるということです。

協力の分野としては、①領海や領空等の警戒監視、テロ対策、海賊対策等、あるいは②災害対処、捜索救難救命、医療、援助物資の輸送等、③国際平和協力活動PKOに参加するための能力強化等といった3つを挙げています。①と②というのは、今までもODAで既に2015年以降やってきた内容ではあるんですけれども、ODAとしてやっていったら非常に足かせが強いということは外務省もこれは新聞新聞記者へのリークみたいな形では話をしてるんですね。

つまり、ODAというのは私たち市民社会との間での協議の場があり、この支援は本当に軍事目的ではなく災害対処なんですかとか、そういったことを質問されていろいろと突っ込まれるわけなんですよね。非常にやりにくいっていうことは外務省としてはあったようで、ですから今までもODAでやってきた内容ではあるけれども、もう明確に軍事的な支援として軍に対してできるという点は、外務省的に、政府的にはOSAに移す意味があるのではないかなと。

それからその他の留意事項でモニタリングとか透明性の確保ということも一応ここではうたってます。あとでまた触れます。これはその国会ですね、審議の中、あるいはNGOとの協議の中でも非軍事原則の破棄ではないかという質問がもちろんたくさん出ました。それに対して岸田首相、林外務大臣も、何度も同じような言葉で答弁をしていて、それはODAとは別ですと。別だから、非軍事原則は関係ないんですと、それから国際紛争との直接の関連が想定しがたい分野でやるんですということを強調してました。具体的には今年度が予算20億円で、フィリピン、マレーシア、フィジー、バングラデシュの4カ国が対象です。

小さく産んで大きく育てるというふうに言ってる与党議員もいるので、もちろんそういうふうにしていきたいのだと思います。2年目の2024年度はもう倍増以上で予算が50億円ということが新聞のリーク記事で出ています。対象国はフィリピン、インドネシア、パプアニューギニア、ベトナム、モンゴル、ジブチということで、これは今までもうODAのときからも巡視船とか、警戒監視レーダーでたくさん出してきたような国が並んでます。

フィリピンについては、先程の杉原さんの武器輸出の話でも、武器輸出も完成品の輸出はフィリピンだけということもあります。ちなみにその完成品を輸出した三菱電機のレーダーですけれども、恐らく同じものをこのOSAでやるんではないかという風にも言われています。

それからインドネシアは航空機のエンジンの話もありましたけども、この国はもう本当に重視をしてるんだろうなという感じがしますね。

想定されるのは、こういった衛星通信システム、ドローンとか警備艇と同時に、軍事インフラもやっぱり結構出てくるんではないか。

これはODAでもそういった、例えばフィリピンの港湾の整備とかやってですね。これもやっぱりNGOとか、その協議の場では本当に軍事的なことに使われないんですかと突っ込まれているので、OSAになるとそういうツッコミはできないということで、軍事インフラも考えてるんだろうなと思います。これは日刊まにら新聞というフィリピンの邦字新聞があって、そこが8月の頭に出した記事ですけども、日本の国会議員、日本フィリピン友好議連、森山会長率いるメンバーがですね、フィリピンに行ってマルコス大統領と会談をして両国の防衛協力強化を確認したと。日本フィリピン、アメリカの3カ国防衛協定に向けた取り組みについては、これはマルコス大統領の方から前向きな言及があったということもあるんですが。それに合わせてOSAに対してフィリピン側から要望リストというのが提出されたそうです。フィリピン軍の参謀総長の談話によれば、陸軍は軍用ヘリ29機、海軍は日本が沿岸警備隊に供与したような巡視船に似た艦艇を要望したといったようなことが現地では出ていますので、2024年のOSAの中にはこういった具体的な要望に基づいたものが出てくるかもしれないですね。このOSAについて、NGOの側ですけれども、私たちNGO非戦ネットというようなネットワークで、これはイラク戦争の頃に結成をして、それから安保法制の頃にも結構一生懸命活動をしている。休眠状態があったんですけれども、昨年、安保三文書のときにもう一回立ち上げて、この間、6月1日にはOSAに反対する声明を出しました。

反対理由として4点挙げていまして、(1)非軍事原則の破棄であること。(2)覇権争いに加担して国際的な緊張をエスカレートさせるものであること。(3)日本の防衛産業を武器供与によって支援するものであること。(4)国会議論もなく、今後も監視の目が届かないというようなことです。声明を出して6月26日には議員会館で外務省との意見交換も行いました。

そういった意見交換とか、あるいは国会の場で必ず出てきているポイントとしては、同志国って一体何なんだということがあります。これはその首相答弁も含めてですね。このように政府は答えているのですけども、ある外交について、日本と目的をともにする国で、課題によってその同志国は違うんだ、とか。ODAにおける同志国とOSAにおける同志国は違うとか、何かいろいろ訳のわかんないこと含めて言っています。新聞報道なんかではもう結構明確に、この同志国というのは対中国包囲網という文脈で使ってるんだと書かれていて、実際にはそう。もちろん、それは誰が考えても恐らくそうだろうということなんですが。

まあ、そういった形で、やっぱり同志国があれば同志国ではない国があるということなので、本当に2つの陣営に、西側とそれから中露というようなところに分断されていく中で、グローバルサウスの国々をどう取り合うのかといったような発想で、外務省としてはこういった援助を使って、グローバルサウスの国々を自分たちの陣営につけていこう、あるいは中国の方に行かないようにしようというようなことで、非常に今まで国際協調主義でやってきたという意味でも、日本の政策を転換するものだというふうに危機感を持っています。

このOSAの一番下に書いた考え方として、同志国の安全保障上の能力抑止力の向上という考え方ですけれども、これはちょっと私も専門ではありませんし、皆さんの御意見とかも後で聞ければと思うんですけれども、集団的安全保障とも概念としてはやはり微妙に違うのかなと。どちらかというと、アメリカのいわゆる統合抑止というような、他国に軍事的な支援とかもしながら、他国と一緒になって抑止力を同盟国内で向上させていこうこれなのかなという風に思います。そう考えた時に、これは日本国憲法との関係ではどうなのかっていうところなんかも気になるところで、皆さんも、詳しいところがあれば教えていただければと思うんですが。

供与される武器ですね、誰がどう使うかということで、私たちNGOが実際に懸念してるのは相手国の国内での弾圧とか紛争での使用ということです。対象国にフィリピンがなっていますけれども、ここを例にとれば、さっきも少し話をしたように、国連でも人権抑圧が問題になっています。例えば鉱山開発に反対するような少数民族をテロリストとフィリピン政府が呼んで、反テロキャンペーンで軍用ヘリコプターなんかも動員しながら、私もこの前、フィリピンに詳しい方の話を聞いてびっくりしたんですけれども、「あいつらはテロリストだ」みたいなビラを、軍用ヘリコプターから撒くみたいなこともやっていてですね。もちろん爆撃なんかも、ヘリコプターから爆撃してるかわかりませんが、そういった武力的な攻撃なんかもしてるわけなんですけれども。そういった国に、こういった武器の支援。しかも来年はヘリコプターも支援するかもしれないと思うんですけれども、こういった危険性というのは非常に危惧しています。

つまり、その支援したものを、国軍が使って弾圧とか攻撃、テロ対策の名目でやるんではないか。あるいはフィリピンの例とはまた違いますけれども、今アフリカではクーデターも多かったり、それから国軍が分裂して、これは、スーダンの事例ですが、分裂した軍同士の内戦とか紛争になるとか、それから武器がそういった国からどんどん拡散していくといったようなことがある。やはり供与した武器が現地の人々を殺戮していくっていうようなことを、私たちは本当に危惧しています。

今までNGOは、イラク戦争、アフガニスタン戦争のときに日本は後方支援でいろいろやったわけなんですけども、そういったものは平和国家の日本のイメージを変えるというようなことで、非常に問題視をしていました。それは今でも変わりません。こういったOSAのようなことを、武器輸出をやっていくと、日本に対する信頼が失われて、私たち人道支援開発支援をやっていく中でも難しくなるというようなことはあるんです。それと同時に今は本当にこういった、相手国の国内での弾圧とかに使われる懸念を感じています。他国軍支援の大先輩というか、アメリカは、御存じのとおりイスラエルですとか、イラク、アフガニスタンに対して、巨額の軍事支援、あるいは直接介入をやってきましたけども、そういったものを見れば、イスラエルの入植者がパレスチナ自治区の中での武力的な攻撃をしてる例もありますし、それからイラクとかアフガニスタンでたくさんの方々が殺戮されたということもありますけれども、やはり同じような道を踏み出すんではないかという危惧があります。

次にモニタリング・情報公開とかっていう面で一応外務省も、さっきの方針文書でそういった情報公開を考えてますというふうに言ってるんですが、これは非常に疑問が持たれるというか。私たち外務省と意見交換した中では、外務省ははっきり情報公開についてはウェブサイトの掲載はするけれども、公表が困難なものがあるという風に言っています。それは軍事的な支援なので、軍事的機密があるからということを言ってるわけですね。市民社会との協議については、ODA政策協議会というNGOと外務省との協議の場があり、ここで私たちは2回ほど議題提案してるんですけども、OSAについて、どちらも外務省は審議拒否をしています。それはODAではない、という理由からですね。

ではODA政策協議会ではなくて、もう少し広く意見交換の場が持てないのかと話をしたんですけれども、安全保障分野のことであって、相手国の軍の運用にもかかわるから広く一般の意見を聞くことにはなじまないといったような返答が外務省の担当官からありました。

ですから、軍事的なことなので、本当に一回始まってしまったら中身が見えない。本当に危険なものですよね。私たちではなくて、これはメディアの方とか国会議員の方が情報公開請求で外務省内部でのOSAについての議事録ですとか、関連資料開示を求めたところ、このような形で本当にのり弁状態で出てきているので、私たちも外務省が公表した、その方針文書以外の情報というのはほとんど何が議論されたのかわからないです。

もう時間もなくなってきたんですが、武器移転については皆さん御承知かと思いますが、さまざまなパターンがあります。民間武器輸出、さっき、杉原さんのお話のあったところですけれども、それから2つ目が自衛隊の装備品の無償移転があるわけですね。これは自衛隊法116条が改正されて可能になったもので、ウクライナへの防弾チョッキがこれで行われました。3つ目がODAでの装備品供与。ただ、防災用具とか巡視船などですが、相手国の軍に供与するということが挙げられています。そして4番目に書いたのが今回のOSAで、これはもう本当に武器、政府が提供する装備品というものを無償で供与するということです。輸出ではなくて、無償で供与するというところですね。これが今回のもの。それから5番目に書いた日本政府が低利貸し付けで相手国が武器を購入するというものも、東京新聞の報道とかを読むと、2015年ぐらいにこれも検討がされてきていて、今も検討されてるかもしれません。これは私もわかりませんけれども。軍事版の円借款のようなイメージですけれども。アメリカとか他の国々については、こういったローンの形での軍事輸出、軍事支援も非常に多いですよね。

もう本当に2010年代の後半からこういったメニューというんですかね、武器移転のさまざまな武器支援のさまざまな形をそろえてきている感じがします。そもそも民生品として武器の定義づけにはならないもあります。これはウクライナに関する火薬の支援をアメリカにするみたいな話ですよね。これは民間の輸出で装備品ではなく移転するものであり、本当にいろいろとあるわけです。

OSAの目的について、何が目的ですかと私もこういったお話をするときに聞かれることがあって。もちろん大きく言えば安全保障上、外交上の目的とそれから軍需産業の支援策というような点だと思いますけれども。安全保障外交上の目的については、自分たちの陣営に日米あるいは西側陣営に引き込んで影響力を行使するために最も効果的な手段がこの軍事支援と軍事協力だということを、いろいろと外務省の話ですとか、新聞記事を読んで私も何か思うんですね。

そういった国々に支援することがどれだけ軍事戦略上の現実的な効果みたいなものなのか。私はちょっとよくわからないんですが、影響力行使とか覇権の行使というかという意味でいうと、間違いなく効果的な手段というふうに外務省は思ってるんじゃないんですかね。

匿名で報道に出ている、大変露骨で率直な発言をする自民党の議員の方がいて、ある国に対して影響力を行使するのにODAで学校とか病院とかをつくるよりも、軍事的な支援をする方が簡単というか効果的なんだと言ったような発言もありましたけれども、やはり相手国の権力強化につながるような軍事とか治安対策支援をして軍事協力関係もどんどんどんどん結んでいくっていうことが、対中国とかを意識したときの陣営の強化ということでは、有効というふうに考えているのかなと思います。

こういった流れにどう対抗していくかということで、私たちNGOとしてはODA開発協力大綱の改定の流れに対して、外務省への働きかけ意見交換会とかやってきましたけれども、さっき言ったように外務省は完全にODAとは別だと切り分けて審議を拒否するような状態なので、正直言ってちょっと行き詰まり感もあります。

NGO非戦ネットというような枠組みで、6月1日に先ほどもご紹介した声明を出して、院内集会もやった。国会議員4名の方に来ていただいたんですけれども、何とか国会議員にお願いして仲介していただく形で外務省との意見交換ができてるような状態です。

今後についてはここに書きました。フィリピンですとか、インドネシアとか、そういった国について、先ほど話をしたような社会状況や人権状況、軍の動きに注視をしながら、そういった国に軍事支援をすることの危険性というのを問題提起していかなければいけないと思っています。勉強会などイベントの開催ですとか、臨時国会に向けての働きかけはまだ具体化できていないんですけれども、今週また、非戦ネットもミーティングをしますので、考えていきたいと思っております。

というところで、私の話は以上です。ありがとうございます。 

(文責:平和構想研究会)

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