2023年9月会合 報告 テーマ「武器輸出と他国軍支援」

平和構想研究会(2023年9月会合)
テーマ 「武器輸出と他国軍支援」
日時 2023年9月4日(月)14:00~16:00
場所 早稲田大学 早稲田キャンパス14号館4階403教室
報告:杉原浩司(武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表)「殺傷武器の輸出解禁=『死の商人国家』への堕落を止めるために」
報告:今井高樹(日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事)「「同志国」への武器無償供与 政府安全保障能力強化支援(OSA)について」
司会:川崎哲(平和構想研究会代表、ピースボート共同代表/ICAN国際運営委員)

 政府・与党は、殺傷能力のある武器の輸出を認める方向での武器輸出運用ルールの見直しを進め、OSAという新たな仕組みも作られた。これまで武器輸出を自制し、国際貢献は非軍事を基本としてきたはずの外交上の原則が大きく変わろうとしている中、現状を把握し、歯止めをかけるための方策を議論するため、今回の研究会が開催された。

 1人目の報告者である杉原氏は、現状の議論のポイントは、殺傷武器を輸出できるようにするかどうかであるが、従来の政府解釈では殺傷武器の輸出はできないことが改めて浮き彫りになったと指摘した。

そして、国是とされてきた殺傷武器の輸出禁止を解禁することを方向付けた与党実務者協議は、わずか12人による密室協議であり、議論の期間も短く、その協議の場で出された政府見解は、その内容すら国民に明らかになっていないことを批判した。

政府が検討を急ぐ理由として、日英伊で行う次期戦闘機の共同開発のためであるとの報道が紹介された。すなわち、現状では、次期戦闘機を共同開発しても、第三国への輸出には日本の事前同意が必要となるところ、年内に日英伊で条約を締結し、年明けの通常国会で批准するために、その障壁を撤廃しておきたいというのである。

杉原氏は、欧米の軍産複合体と日本の市民が直接対峙していかざるを得ないような新しいステージに突入しているという認識を示し、共同開発がなされれば、第三国輸出に流れて行く可能性が高いため、単に第三国輸出をやめるように求めるのではなく、共同開発自体を批判すべきであることを強調した。

最後に、小田実氏のいう良心的軍事拒否国家のようなイメージを参考に、対抗する国家像を示していかなければならないと述べ、報告を終えた。

 2人目の報告者である今井氏は、日本の国際協力は非軍事で行うことは日本政府自身が誇ってきたことであることをまず示し、1992年初代ODA大綱以来のODA四原則のうち、「②軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」(非軍事原則)、「③軍事支出や大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造の動向への注意」が、2015年の改定で緩和されたことを振り返った。そして、今井氏は、今回、ODAとは別に政府安全保障能力強化支援(OSA: Official Security Assistance)という枠組みを設けることで、事実上、非軍事原則は破棄されることになったとの認識を示した。

OSAは、同志国の安全保障上の能力向上等を目的とするとされているが、同志国とは、「ある外交課題について日本と目的をともにする国」と答弁され、対中国包囲網という文脈で使われている。このことについて、今井氏は、政府がグローバルサウスの国々に影響力を行使するために最も効果的な手段が軍事支援と軍事協力と考えられていると分析した上で、これは国際協調主義政策の転換であり、2陣営に分断された世界で、グローバルサウスの国々を自分たちの陣営につけていくことであると危機感を表明した。

さらに、今井氏は、情報公開についても不十分であると指摘し、外務省は、情報公開困難なものがあり、一般の意見を聞くことや、NGOとの協議の場を設けることも拒否していることを紹介した。加えて、議事録が開示されてもほとんどが黒塗りで、何が議論されたのかも分かっていないことを、開示された文書を示して指摘した。

最後に、今井氏は、軍事的な事柄は、一度始まると中身が見えず危険であると指摘し、フィリピンやインドネシアなど社会状況や人権状況、軍の動きに注視しながら軍事支援をすることの危険性について問題提起していかなければならないと述べ、報告を終えた。

その後、参加者による質疑応答の中で、以下のことが議論された。

杉原氏は、自衛隊法と防衛装備移転三原則の武器の定義は異なり、恣意的に言葉の定義を使い分けて、これまで輸出できなかったものを輸出しようとしていることを指摘した。また、今井氏は、OSA自体の予算規模は比較的小さく、相手国の軍と自衛隊の協力関係づくりに意味があるのではないかとの認識を示した。

また、杉原氏は、5類型の撤廃に関し、共同開発と武器輸出は形式的には関係なく、共同開発は認めて5類型を堅持することは矛盾であるとも考えられるため、共同開発自体に反対すべきことを改めて強調した。

 今井氏は、国際協力活動における実体験から、南スーダンで米国が反感を持たれている一方、日本の団体は信用されているが、日本政府により日本の平和ブランドが崩れて行くことの危険性を語った。

このほか、経済安全保障の強化を推進する観点から設定された経済安全保障重要技術育成プログラム(K-Program)が紹介され、杉原氏は、安倍政権以降、イスラエルとの軍事協力経済協力が一気に加速していることを指摘した。

川崎氏は、共同声明を出すことを宣言し、次回は南西諸島を取り上げる旨を述べて閉会した。

(島村海利)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です