―声明と論点― 大軍拡を止め、平和外交に転じるために

 昨年12月に閣議決定された安全保障3文書をふまえ、現在国会で予算案が審議されている。それは、巨額の防衛費を計上した大軍拡予算である。

 10年前の2013年度の当初予算での防衛関係費は約4兆7800億円であったが、2022年度は約5兆4000億円、それが今年度予算では約6兆8200億円に上る。しかも23年度からの5年間で43兆円という計画で、単純に5で割ると1年につき8兆6000億円となる。

 政府はNATO並みでGDP比2%の防衛費をめざすとしているが、世界最高レベルの国債残高を抱え、かつ、著しい低出生率の中で優先されるべき予算は別にあるはずである。

 予算案は既に衆議院を通過していることから、憲法の規定上、今年度末には成立する。しかし、この間の国会審議でさまざまな問題が浮き彫りになっており、国会の内外でさらなる議論が求められる。とりわけ、敵基地攻撃をめぐる野党からの質問に「ゼロ回答」を続けるなど、防衛政策に関する実質的な議論に応じようとしない政府の姿勢は顕著であり、深刻な状況である。

 一方で、放送法の解釈をめぐる総務省の文書によって、政府による露骨な報道への介入の一端が暴露された。政府は日頃「普遍的な価値観を共有していない」という表現を用いて近隣諸国の脅威を煽ってきたが、民主主義や市民的権利の尊重といった基本的価値を脅かしているのは日本政府自身である。

 このまま何の歯止めもなく日本が大軍拡へと突き進んでいけば、その先にあるのは破滅的な戦争である。それを回避し、平和外交へと転じるために、以下の論点を提示する。

 第一に、今国会における予算審議の中で、少なくとも以下の諸点が明らかになった。国会議員は引き続きこれらについて政府の見解と情報開示を求め、議論をしていくべきである。

  • 敵基地攻撃について想定事例が示されておらず、すべて「個別具体的に判断」として、何ら歯止めがかけられていないこと。
  • 購入、開発する長射程ミサイルについて、政府は、相手の武器の射程圏外から自衛隊員の安全を確保して発射する「スタンド・オフ・ミサイル」だと説明しながら、明らかに中国のミサイルの射程圏内にある南西諸島への配備を否定していないこと。
  • 台湾有事において日本が集団的自衛権を行使して「参戦」した場合に、日本がどのような被害を受けるか、その際の国民保護をどうするかについて、現実的な議論がなされていないこと。
  • 台湾有事において米軍が在日米軍基地から出動することについての「事前協議」のあり方や判断基準が曖昧であること。
  • 嘉手納弾薬庫にみられるように、米軍基地の自衛隊の共同使用が拡大されており、新たな基地負担とリスクをもたらしていること。

 第二に、今後起きうることとして、以下のようなことが挙げられる。これらに関して政府はさらに情報開示すべきであり、そのリスクを含め、国会の内外で議論がなされなければならない。

  • トマホークの大量購入
  • 全国各地での弾薬庫の整備
  • 石垣島におけるミサイル攻撃基地建設
  • 陸海空を一元的に指揮する「統合司令部」を設置するための自衛隊法改定
  • 防衛装備移転三原則の見直しによる、武器輸出の全面解禁
  • 軍拡増税の実施時期の確定
  • 民間用港湾・空港の軍事利用を可能とする制度の導入
  • 日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定
  • 日米韓3カ国での「拡大抑止」協議体の設置

 第三に、東アジアにおける戦争を回避し平和外交を展開するために議論すべき喫緊の課題として、以下のことが挙げられる。国会では未だほとんど議論がなされていないこれらの課題に、与野党はしっかりと向き合うべきである。

  • 朝鮮戦争休戦70年(2023年7月)を機にした朝鮮半島の平和・非核化交渉
  • 中国と「互いに脅威にならない」ことを再確認する首脳間外交
  • 東アジア版INF条約のような核・ミサイルを管理する軍縮条約への取り組み
  • 対中国、対朝鮮半島における自治体外交と民間対話プロジェクトの活性化

 昨年12月に平和構想提言会議が発表した提言「戦争ではなく平和の準備を―“抑止力”で戦争は防げない―」は、このほかにも多くの提案を盛り込んでおり、その活用が期待される。

 戦争の過ちを二度とくり返さないために、真摯な議論と行動を呼びかける。

2023年3月23日

平和構想研究会 代表・川崎哲

賛同人
青井未帆(学習院大学教授)
秋林こずえ(同志社大学教授)
阿部浩己(明治学院大学教授)
雨宮処凛(作家・活動家)
池内了(名古屋大学名誉教授)
池尾靖志(立命館大学非常勤講師)
内海愛子(新時代アジアピースアカデミー共同代表)
岡田充(ジャーナリスト)
岡野八代(同志社大学教授)
奥本京子(大阪女学院大学教授)
神子島健(東京工科大学准教授)
清末愛砂(室蘭工業大学教授)
佐々木寛(新潟国際情報大学教授)
志田陽子(武蔵野美術大学教授)
申惠丰(青山学院大学教授)
杉原浩司(武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表)
高原孝生(明治学院大学教授)
谷山博史(日本国際ボランティアセンター(JVC)前代表理事)
中嶋秀昭(NGO職員)
中野晃一(上智大学教授)
畠山澄子(ピースボート共同代表)
堀芳枝(早稲田大学教授)
菱山南帆子(許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局長)
水島朝穂(早稲田大学教授)
毛利聡子(明星大学教授)
(2023年3月23日現在、賛同人25名)

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