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日本は「死の商人」になるのか −殺傷武器の輸出に反対する共同声明

 現在、防衛装備移転三原則の運用指針の見直しをめぐる自民・公明の与党実務者協議が進められています。その中で政府は、これまで禁じられていた殺傷武器の輸出を認める見解を示しています。

 日本が殺傷武器を輸出することは、「メイド・イン・ジャパン」の武器によって他国の人々が殺傷されるようになることを意味します。「平和国家」を掲げることで他国から一定の信頼と尊敬を得ていた日本が、「死の商人国家」へと転落することを、許容することはできません。

 このような観点から、学者、専門家、NGO活動者ら22人が緊急の共同声明をとりまとめ、2023年10月3日付で発表しました。全文および呼びかけ人リストは以下の通りです。

 この取り組みの事務局は平和構想研究会(代表:川崎哲ピースボート共同代表)が担っています。

 

【共同声明】日本は「死の商人」になるのか 殺傷武器の輸出に反対する共同声明

 岸田政権は、年内にも、今まで制限されてきた殺傷武器の輸出を解禁しようとしています。それは「メイド・イン・ジャパン」の武器によって他国の人々が殺傷されるようになることを意味します。日本が掲げてきた「平和主義」は今、崖っぷちに立たされています。

 防衛装備移転三原則の運用指針の見直しをめぐる自民・公明の与党実務者協議は、7月に中間報告をとりまとめました。その後、政府への提言をめぐる議論は「秋以降」始めるとされていましたが、岸田首相による突然の指示を受けて前倒しされ、8月23日、9月6日と相次いで開催されました。

 そこで政府は、実務者による「論点整理」を追認する以下の見解を示しました。

  1. 今まで禁じていた殺傷武器の輸出を、「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に沿う場合は、解釈変更によって「可能」とする。

これは、密室協議における元防衛官僚の「5類型は殺傷武器の輸出を制限してはいなかった」との検証不可能な「証言」を唯一の根拠とするもので、あまりにも恣意的です。

  1. 日英伊で共同開発する次期戦闘機を念頭に、開発相手国や日本からの第三国輸出を容認する。

共同開発の調整機関を設置する条約への年内の署名と年明けの通常国会での批准が想定されており、議論の前倒しの根拠とされています。しかし、戦闘機は殺傷武器そのものです。かつて英伊などが共同開発した戦闘機「ユーロファイター」がサウジアラビアに輸出され、イエメンへの無差別空爆に使用されました。これは国連人権理事会で「戦争犯罪」と非難されています。このように、第三国輸出によって、日本が戦争犯罪に加担してしまう恐れすらあるのです。

  1. F15戦闘機のエンジンのインドネシアへの輸出を念頭に、「自衛隊法上の武器」に部品は該当しないものとする。

これは、これまで「武器にあたる」として輸出できなかったエンジンを「武器にあたらない」と解釈し直すということです。しかし、たとえエンジンであっても、日本製の武器部品が組み込まれた戦闘機によって他国の人々が殺傷される状況が生まれることを見過すことはできません。

 このほかに与党協議では、ウクライナを念頭に「国際法に違反する侵略や武力の行使または威嚇を受けている国」への武器輸出も議題に上がっています。しかし、いかなる国がそれに該当するかについては、恣意的な判断や運用がなされる可能性があります。今、日本が1967年の武器輸出三原則以来掲げてきたはずの「国際紛争を助長しない」という原則が無きものとされ、日本の武器が国際紛争を助長し悪化させることが現実になろうとしているのです。

 実際、日本はこれまでも、国際法違反として非難されているイエメンへの無差別空爆を行ってきたアラブ首長国連邦(UAE)に対して、川崎重工製の軍用輸送機C2を輸出することを企てるなどしてきました。今必要なことは「国際紛争を助長しない」という原則を明確に再確認し、殺傷武器の輸出禁止を厳格化することです。

 日本が武器を輸出しないことは、専守防衛や非核三原則と並んで、平和憲法の下での日本の「国是」でした。1981年、衆参両院は武器輸出三原則の厳格な運用を政府に求めて、全会一致で国会決議を行っています。その「国是」を、わずか12人の与党の政治家が密室協議によって覆そうとしています。これは、主権在民とは相容れない独裁的な手法です。運用ルールを変えるのなら、国会決議を経て決定すべきです。正当性のない実務者チームを解散させたうえで、閉会中審査を含めて、国会で徹底した議論を行うべきです。

 日本はこれまで、平和主義を掲げる国家として、国際社会において一定の信頼を得てきました。それは、国際協力の現場においても、日本に対する信頼として生きてきました。しかし、殺傷武器の輸出を解禁してしまえば、このような「平和ブランド」は完全に失われます。外務省が進めている武器の無償供与(OSA)もまた、武器輸出の一環です。これらは、国際協力における日本の信頼を損ない、現場で活動するNGOなどの人々を危険にさらすものです。

 殺傷武器の輸出解禁は、国際紛争のみならず、国内紛争への加担にもつながります。日本が輸出した武器が、受取国の政府軍によって、市民を弾圧し人権を侵害する道具に使われることも起こりうるのです。

 殺傷武器の輸出解禁はまた、軍縮・軍備管理における日本外交の信頼性を損なうものです。日本がこれまで、核兵器をもたず、軍事大国にならず、武器輸出を行わないと誓約してきたことは、その軍縮外交を支えてきました。今日、ロシアによるウクライナへの侵略戦争、米中対立の激化、世界的な軍備拡張の動きが見られるなか、緊張緩和、予防外交、そして軍縮の必要性は高まっています。日本は、それらの分野でこそ役割を果たすべきです。

 殺傷武器の輸出解禁は、集団的自衛権の行使容認や、敵基地攻撃能力の保有など、積み重ねられてきた解釈改憲の延長線上にあるものです。日本が「戦争をする国」となり「他国に殺傷武器を輸出する国」にまでなれば、平和憲法は完全に空洞化します。

 一連の動きの背景には「防衛基盤整備」と称して、国内の軍需産業を強化しようという流れがあります。軍需産業は、破壊と死傷を生み出し、不信と対立を世界に広げる一方、社会の実質的発展には貢献しません。私たちは、日本が、他国に尊敬される「平和国家」から「死の商人国家」へと転落することを、許容することはできません。

 私たちは、次のことを求めます。

  1. 武器輸出の運用指針見直しに関する与党実務者チームをただちに解散させ、閉会中審査を含め、国会で期限を設定せずに徹底した議論を行うこと。
  2. 殺傷武器の輸出を解禁しないこと。
  3. 第三国輸出による戦争への加担と不可分である次期戦闘機の日英伊共同開発そのものを中止すること。
  4. 武器輸出に多額の税金を投入する軍需産業強化法を廃止すること。

 その上で、私たちは、日本が厳格な武器輸出全面禁止の原則を改めて採用し、現行の防衛装備移転三原則をその方向へ改定することを求めます。そして、国際協力において「紛争を助長しない」原則を改めて確立し、軍事的な協力ではなく、軍縮、緊張緩和、難民受け入れ、気候危機、貧困の克服、災害救援など、人々の命を脅かす問題の解決に非軍事で尽力することを求めます。

2023年10月3日

 

呼びかけ人

青井未帆 学習院大学教授

秋林こずえ 同志社大学教授

雨宮処凛 作家・活動家

池内了 名古屋大学名誉教授

伊藤和子 ヒューマンライツ・ナウ副理事長・弁護士

稲垣知宏 日本パグウォッシュ会議代表

井原聰 東北大学名誉教授

今井高樹 日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事

内海愛子 新時代アジアピースアカデミー共同代表

大久保賢一 日本反核法律家協会会長・弁護士

岡田充 ジャーナリスト

奥本京子 大阪女学院大学教授

川崎哲 ピースボート共同代表

清末愛砂 室蘭工業大学教授

申惠丰 青山学院大学教授

杉原浩司 武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表

髙遠菜穂子 ピースセルプロジェクト代表理事

武田隆雄 日本山妙法寺僧侶

中野晃一 上智大学教授

西川純子 獨協大学名誉教授

藤岡惇 基礎経済科学研究所常任理事

堀芳枝 早稲田大学教授

(50音順)

連絡先

平和構想研究会 shudantekijieiken@gmail.com

 

発表記者会見

 この共同声明の発表記者会見の様子は、以下のリンクよりご覧になれます。(2023年10月3日(火)11:30~、参議院議員会館)

 

 

賛同団体・賛同人

 この声明には、60の団体と474名の個人から賛同をいただいています(2023年10月17日19時現在。50音順、敬称略)。

 賛同人には、以下の方々が含まれます。

稲葉剛(立教大学)、勝俣誠(明治学院大学)、川嶋みどり(看護師)、纐纈厚(明治大学)、古賀茂明(政治経済アナリスト)、斉藤小百合(恵泉女学園大学)、佐々木寛(新潟国際情報大学)、志葉玲(ジャーナリスト)、猫塚義夫(医師)、振津かつみ(医師)、堀潤(ジャーナリスト)、森瀧春子(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)

賛同団体・賛同人の一覧は、以下の通りです。

【団体賛同】60団体

平和を学ぶ会・台東/「キリスト者・九条の会」北九州/I女性会議/I女性会議北海道本部/NPO法人ANT-Hiroshima/市川市平和委員会/医療と福祉の戦争協力に反対する連絡会議/認定NPO法人WE21ジャパン・ほどがや/特定非営利活動法人WE21ジャパン/NPO法人WE21ジャパンいずみ/オール越谷市民アクション/小樽・子どもの環境を考える親の会/小樽・猫の事務所/小樽・猫の事務所9条の会/学堂会/過去と現在を考えるネットワーク北海道/教育に愛と平和を取り戻す市民の会/軍拡NO女たちの会・北海道/経済安保法に異議ありキャンペーン/ゲノム問題検討会議/研究所テオリア/見樹院/現代医療を考える会代表山口研一郎/子どもの未来を望み見る会/静岡YWCA/市民自治を創る会/市民連合・豊中/JusticeforKids/STOP改憲・北区の会/STOP大軍拡アクション/Stop!辺野古埋め立てキャンペーン/スナック社会科/生活と政治を考える都筑区民の会/戦争させない市民の風・北海道/立川自衛隊監視テント村/DNA問題研究会/東海民衆センター/東京YWCA/特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター/南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会/日本カトリック正義と平和協議会/日本消費者連盟/日本YWCA/ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン/反安保実行委員会/ピースボート/非暴力平和隊・日本/平等を求めるアジア女性の会/ふぇみん婦人民主クラブ/武器取引反対ネットワーク(NAJAT)/婦人国際平和自由連盟日本支部/平和憲法を未来へつなぐ会・小樽/平和を考え行動する会/緑の大阪/緑の党グリーンズジャパン/未来の福島こども基金/横浜桐畑教会靖国神社問題委員/ほか3団体

【個人賛同】474名 青木茂/赤井純治/赤坂京子/赤塚謙一/赤羽伸子/秋山幸子/秋山輝雄/朝倉美江/明日美/阿知良洋平/阿部太郎/天尾俊一/尼子ゆり/雨田信幸/天野達志/天野環/天野秀明/荒金敦/安堂和佳子/飯高京子/飯塚淳平/五十嵐正博/池田カツラ/池田万佐代/伊佐なずな/石井亜紀子/石下直子/石川真咲/石毛教子/石橋祥子/石本貴子/石渡能子/泉聖二/市川平/市川ひろみ/一ノ瀬繁子/一ノ宮麗子/伊藤武彦/稲葉剛/乾喜美子/井上郁子/井上悦子/井上団/井上博/今川治/岩瀬/岩本佳子/宇井志緒利/上内恵/上田健一/上田紘治/上野より子/上村英明/氏家里美/内田みどり/うつのみや陽子/生方忠史/江上彰/枝木美香/江田雅子/榎本清/及川洋子/大内要三/大賀あや子/大久保なつみ/大久保満/大河内秀人/大田美和/太田(小澤)恵/大束愛子/大槻邁/大橋勉/大畑豊/大洞俊之/大室恵美/岡田良子/岡田啓子/岡田健一郎/岡田麻里/岡田弥生/岡根葉子/岡本達思/小川信夫/小川洋/尾木原唯史/沖山美喜子/小楠知恵子/小倉正/尾澤邦子/越智祥太/尾上学/小野寺真人/小野政美/小渕真理/海田祐子/影山茂樹/神子島健/籠谷成幸/葛西敦子/笠原眞弓/梶野宏/加治宏基/加治誠/柏崎正憲/柏原登希子/片岡洋子/片野淳彦/勝俣誠/加藤富美子/加堂妙子/加藤充子/加藤寿子/加藤めぐみ/家登みろく/金山萬里子/金山弥平/加納正人/神尾佳世/亀田旬子/川嶋みどり/河添誠/川名真理/川野安紀子/川見公子/川本隆史/北田依利/北田道也/北林岳彦/北原修/木村恵子/木村まり/木村満里子/木山幸輔/楠本敏行/工藤剛史/工藤貴子/久保博夫/くまがいマキ/熊﨑雄大/倉田千鶴子/黒木宏子/黒澤眞澄/黒田秀之/黒田恵/郡司真弓/小岩井信/纐纈厚/河野秀子/河野裕子/古賀茂明/小園小夜子/小玉かおる/小西健久/小林/小林晶子/小林文子/小林収/小林順子/小林眞理/古俣今日子/小森隆/コリン・コバヤシ/近藤ゆり子/近藤玲子/金靖郎/齋藤和郎/斎藤京子/斉藤小百合/斎藤太郎/佐久間雅子/櫻井真弓/佐々木かおり/佐々木寛/佐々木真紀/佐多美知子/佐藤雅一/佐藤けい子/佐藤みえ/佐藤美穂/佐藤悠記/佐藤由美子/澤田愛子/澤登早苗/山東美恵子/重盛基厚/繁山達郎/志葉玲/柴田憲德/渋谷悟/島田環/島田日向子/清水晶子/清水朔歩/清水紀雄/清水瑞穂/清水深雪/白崎朝子/神野玲子/神保大地/菅原順子/菅原健二/杉田真衣/杉林晴行/杉本野菊/杉山聖子/菅野礼司/鈴木功/鈴木こずえ/鈴木さよ子/鈴木弘子/須藤伊知郎/瀬川嘉之/関口宏/背戸柳勝也/高尾裕香/髙﨑方子/髙橋清貴/高橋純司/高橋博子/高橋あゆみ/高橋紀代子/高橋/高橋昭吉/高橋悠太/高橋芳恵/高橋良平/高原孝生/高村遼/高屋敷ヒヅ子/滝朝子/瀧さをり/瀧峠智子/竹内宏一/武川彦/竹田賢一/竹田正司/武本匡弘/田島公子/田嶋康利/田代由美子/竪場勝司/田中泉/田中優/田中ゆき子/田中冽/棚橋克郎/田邊健友/田辺博子/田名夢子/田沼滋男/田村槇子/多羅尾光徳/俵恭子/千葉眞/千葉/月谷成美/辻真弓/常岡靖夫/津村順一/勅使川原香世子/寺尾光身/テランス・グリーンバーグ/東海奈津子/鯨津憲司/土代武/内藤雅義/内藤佳寿子/中奥岳生/長尾由美子/長崎由美子/長澤郁子/中沢浩二/中田順子/中西輝夫/中野眞理子/長峯信彦/中村あけみ/中村明美/中村研一/中村直貴/中村ひで子/中村由紀男/中森圭子/永山淳子/成田奈緒子/贄川恭子/西岡美紀恵/西田良子/二宮孝富/丹羽淳/猫塚義夫/野川未央/野島大輔/野副逹司/野田隆三郎/野中敏幸/野村佳代/BARBARADARLINg/橋本泰幸/長谷川くみこ/長谷川しのぶ/長谷川貴子/長谷川陽子/畠山照子/畑中一男/服部成雄/濱中康子/林文子/林健二/原田豊己/原/原由利子/樋口君雄/久本美咲/マシオン恵美香/平泉/平井美津子/平井由美子/平川宗信/比良恵子/平田雅己/平野泰巳/平山隆浩/昼間範子/広瀬波子/弘田しずえ/福島博子/福永明美/藤田ヨシエ/藤原俊和/振津かつみ/古橋雅夫/古屋敷一葉/星川まり/星野ゆかり/細川義人/細淵安美/細谷秀樹/堀潤/堀雅晴/本田浩邦/米田晴彦/牧野祥久/政野淳子/増島高敬/松井和子/松尾香苗/松野亮子/松本孚/真鍋かおる/丸山ゑみ/丸山善弘/三枝三七子/みかみさちこ/蓑田瑞恵/三宅征子/三宅哲子/宮腰直子/宮脇俊昭/三好敬子/三輪文恵/向井宏/向井雪子/武藤謙一/盛佳代子/森瀧春子/森みゆき/森山洋子/矢沢美也/安川久子/安田節子/矢野修一/山内良浩/山口明子/山口恒樹/山口隆道/山口広/山﨑慶太/山崎隆敏/山外周平/山中悦子/山本貴美子/山本純平/山本みはぎ/吉田収/吉田恵子/吉田昌弘/吉村季利子/吉村文夫/米村明美/米山功治/若山治憲/鷲巣俊子/和田央子/渡辺一枝/渡邊昇/和田征子/松岡幹雄/渡辺絹子/ほか75名

連絡先
平和構想研究会(代表:川崎哲ピースボート共同代表) 

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