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【平和構想提言会議・声明】武器によらない安全保障へ ――平和主義をあきらめない

 私たちはいま、第二次世界大戦後の国際秩序と日本の進路が大きく揺らぐ、歴史的な転換点に立っています。ウクライナ、ガザ、レバノン、イランなどで、軍事大国は、国連憲章をはじめとする国際法を無視したかのような攻撃を続けています。そのなかで繰り広げられる民間人の殺戮を、国際社会は止めることができないままです。戦争の拡大と国家間の緊張の高まりは、核使用の脅威をも高めています。その一方で、人道支援、保健、気候危機対策などに必要な国際協力は妨げられ、貧困拡大や環境破壊が進んでいます。これらは、人類の生存基盤を揺るがす地球の危機を招いています。

 こうしたなかで日本は、戦後「平和国家」を標榜してきた国として、ほんらい、紛争の平和的解決、国際法秩序の修復、人権保障や環境保護に向けて尽力すべきところです。ところが、いま日本政府が行っていることは、自らの軍事力増強と、アメリカとの軍事協力関係の強化ばかりです。トランプ政権が国際法を無視した自国中心的な行動をどれだけ重ねても、日本政府は無批判にただ「日米同盟の強化」をくり返すばかりです。さらには、イギリス、オーストラリア、フィリピンといった国々との「準同盟」なる概念を、法的根拠も不明確なまま提唱し、事実上の「中国包囲網」を形成しようとしています。

 そして日本政府は、安全保障政策において、これまで平和憲法のもとで課されてきたさまざまな制約を撤廃しようとしています。それは、軍事費の大幅な増額、全国へのミサイル基地や弾薬庫の設置、自衛隊による敵基地攻撃態勢の強化、武器輸出の全面解禁と軍事産業の育成などにみられます。これらは「抑止力と対処力の強化」というかけ声の下で進められていますが、その背景にはアメリカからの軍拡圧力があることは明らかです。さらに政権与党内からは、非核三原則の見直し論まで浮上しています。

 政府はまた、メディアや言論空間の管理を強化し、大学を軍事研究へと誘導するなど学術の軍事動員をも図って、戦争に向けた国家体制作りを進めています。国家情報会議の設置をはじめとする市民監視体制の強化が進み、「国旗損壊罪」制定をめざす動きに見られるような「愛国主義」の押しつけや、教育に対する国家の介入や統制も強められています。年内に予定される「安保三文書」の改定は、こうした動きを加速させるものであり、明文改憲をも先取りするものとなる可能性が高いといえます。

 与党が加速させている明文改憲への動きのなかでは、緊急事態条項の創設や9条の改定が論じられています。現在与党においてなされている9条改定の主張は、2項維持論であれ削除論であれ、自衛隊を実質的な「戦力」と定めようとする動きであることに変わりはありません。それは、戦争放棄を掲げた平和主義に根本から挑戦するものです。ほんらい政治権力をしばるはずの憲法の規定が、権力者たちによって取り除かれようとしているのです。

 このような軍事力増強や戦時体制づくりが日本の安全と東アジアの安定に寄与するのかといえば、正反対です。日本のこのような動きは、地域の緊張をむしろ高め、国際関係のさらなる不安定化を招きます。すでに、日本と中国の対立は、国際的にも重大な懸念事項となっています。日本政府は軍拡の理由として「安全保障環境の厳しさ」を掲げていますが、これは単に外からやってくるものではありません。日本自身が、安全保障環境の悪化の要因を次々と作っているのです。私たちは、この悪循環を止めなければなりません。

 実際には、非核三原則「維持すべき」が75%、武器輸出「反対」が67%という最近の世論調査結果(4月20日、朝日)にみられるように、日本社会においては、平和主義を重視する世論が依然として深く根付いています。かつての悲惨な戦争の記憶と侵略への反省に関する、さまざまな継承や教育の取り組みも続けられています。ところが国会では、衆議院で与党が圧倒的多数の議席を占めており、今年2月の衆院選当選者の83%が「憲法9条改正に賛成」の立場を表明しています(3月3日、毎日)。このように、世論と国会議員の指向性との間には、明らかな乖離があります。国会で政権与党が数の力で政策を強行しようとするなか、市民社会から、批判的な問題提起をし続けていくことがきわめて重要です。

 

「安保三文書」改定に対して

 現在、与党、および政府の有識者会議においてなされている安保三文書の改定に向けた議論のなかには、きわめて重大な問題点が数多く含まれています。

  • 際限のない軍事費の増額:軍事費の増額そのものが目的化している。かつての戦時国債への反省から禁止されてきた防衛目的の国債発行が、いまや膨らみ続けている。一方で市民生活は、止まらない物価高、エネルギー不安や必需物資の供給不足によって圧迫されるばかりである。借金と増税によるこれ以上の軍事費増額が正当化できるのか。
  • ミサイルや弾薬の生産拡大と配備:沖縄・南西諸島、九州をはじめ、全国各地に「軍事拠点」が築かれているが、これは住民を多大な危険にさらしている。ひとたび戦争になれば、これらの施設が真っ先に「軍事標的」となることは明らかである。
  • 「敵基地攻撃」態勢の強化:中国本土に届く長射程ミサイルを全国に配備し、米軍と一体となってこれを運用することが計画されている。だがこうしたミサイル基地は標的となる高い危険性をはらむ。武力紛争に関与する米軍への協力が相手国による日本への攻撃の理由となることは、イラン戦争が示している通りである。
  • 国家による軍事産業の育成:海外に武器を輸出することで日本企業が「成長」するという観念は、深刻な倫理的問題をはらんでいるし、その現実性も大いに疑問である。仮にそれが実現して、アメリカのような軍産複合体が日本に形成され政治的影響力をもつようになれば、戦争と経済的利益が結びつく、きわめて危険な状況となる。
  • 自衛隊の「継戦能力」の確保:「長期戦への備え」というが、ウクライナの状況からも明らかなように、「長期戦」とは戦争の被害が継続することにほかならない。エネルギーや食料を海外に依存する日本にとっては、短期戦であれ致命的である。一方で、日本にある多数の原子力施設の武力攻撃に対する脆弱性については、十分に検討されていない。このように、政権与党の議論は、戦争のリアリティを欠いている。むしろ戦争の回避と予防、そして市民生活の保護に議論をシフトさせるべきである。
  • サイバー・AI・ドローンなど「新しい戦い方」への対応、先端技術の軍事利用:AIなど先端技術の軍事利用は、瞬時に大量の破壊や殺戮を可能にしており、これまでとは異なる次元での非人道的行為や人権侵害をもたらす危険性がある。さらに、予測不能な結果や制御不能な事態をもたらす可能性もある。議論すべきは、むしろ、自律型致死兵器システムの禁止を含めた、先端技術の軍事利用の規制強化である。
  • 「認知戦」を想定した情報管理:政府は生成AIやSNSを通じた外国勢力の影響工作への対応を掲げているが、これは、国家による情報の管理・統制、政府に好都合な世論誘導に道を開く危険性を有している。
  • 経済安全保障の強化:政府の議論は「脱中国」あるいは「中国包囲」に偏りすぎている。危機に対する備えとしては、供給網の多様化がまず必要である。そのうえで、より本質的には、食料自給率の向上や、化石燃料に依存しない社会、そのための再生可能エネルギーの推進が議論され、追求されなければならない。
  • 非核三原則の見直し:被爆国日本が非核の原則を変更することは、歴史的な大転換となり、世界的な核拡散や核軍拡を助長する。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、核不拡散体制の信用を失墜させ、北朝鮮の非核化をむしろ困難にさせているが、日本がさらにこれを助長するようなことは許されない。そもそも「核共有」は法的にも実際的にも困難であり、「核持ち込み」は核攻撃のリスクをむしろ高める。
  • 原子力潜水艦導入の検討:政権与党は、敵基地に対するミサイル攻撃能力を強化の一環として、原子力潜水艦の導入を視野に入れた検討を提唱している。しかし、原潜の導入は、原子力の平和利用を定めた基本法の改定なしにはできず、そのような改定は世界的な悪影響をもつ。そればかりか、防衛上の必要性は疑わしく、事故や環境汚染のリスクは著しく高い。

 政府は、外交力や経済力を含めた「総合的な国力の強化」をうたっていますが、その内実は、軍事を中心とした「国家安全保障」を基軸に据えて、社会・経済の管理を強化しようというものです。いわば現代版の国家主義と軍事主義が、国家と企業、メディアが結託した情報支配により、広がりつつあります。

 そのなかで、外国や外国人を「敵」とみなす言説が力をもち、排外主義を加速させていることは見過ごせません。自衛隊の「地位向上」が叫ばれる一方で、軍事的価値観を支えるような形で、ジェンダー不平等や格差の固定化が進んでいます。私たちは、軍事力増強を「国家安全保障」として肯定するプロパガンダに惑わされず、戦争や軍事がもたらす破壊、非人道的被害、人権侵害や差別、環境影響に目を向け続けていくことが必要です。

 

「武器によらない安全保障」に舵を切れ

 このように、いま、日本の平和主義そのものが危機に瀕しています。さまざまな法制度や安保政策のなかに存在してきた平和主義の要素がことごとく消し去られ、平和を重視する社会規範までもが挑戦を受けています。国のあり方を左右する重大な決定が、政府の「専門家会議」が議論を主導する形で、十分な国会議論や市民参加による熟議もなく、推し進められようとしています。

 このまま流されてはいけません。私たちは、改めて、日本国の平和憲法の理念にのっとり、軍事力によらない安全保障の可能性に光を当てる必要があります。そして、周辺諸国との緊張を解きながら、敵対関係を「共通の安全保障」へと転換させていかねばなりません。混迷をきわめる国際情勢のなかで、日本がほんらい議論すべきことは次のようなことです。

  • 戦争がもたらす人道および環境への影響を想起し、戦争の準備ではなくその回避を、安全保障政策の中軸に据えること。
  • 軍事大国による覇権的な行動を抑制し、国連憲章をはじめとする国際法に基づく秩序の再建、国際協調主義、紛争の平和的解決、人権の保障を促進すること。
  • 「アメリカ頼り」の安保・外交から脱却し、日本の自立的な平和外交を確立すること。
  • 昨年11月の高市首相の「台湾有事」答弁以来急速に悪化した日中関係を改善し、日中間の信頼醸成と軍備管理・軍縮のための取り組みを進めること。
  • 朝鮮半島の平和と非核化を含む、北東アジアの持続可能な地域安全保障のための交渉を促進すること。
  • 被爆国として核兵器禁止のための国際的取り組みに真摯に参加し、核兵器禁止条約を調印・批准すること。
  • 先端技術の軍事利用に対する規制を強化すること。

 私たち平和構想提言会議は、こうした視点に立ち、研究者、実務家、ジャーナリスト、市民活動家などの多様な立場の知見を結集し、現在進行中の事態を批判的に検証し、軍事に依存するのではない安全保障のあり方を発信していきます。そして、政府の「安保三文書」に対抗する平和構想をとりまとめ、提言していきます。

2026年6月4日
平和構想提言会議

 

 

平和構想提言会議 メンバー
(第2期:2026年6月~2027年3月、◎は共同座長)

青井未帆 学習院大学教授 ◎

秋林こずえ 同志社大学大学院教授

池尾靖志 大学非常勤講師

内田聖子 NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)

海北由希子 軍拡を許さない女たちの会熊本

川崎哲 ピースボート共同代表 ◎

君島東彦 立命館大学特命教授

清末愛砂 室蘭工業大学大学院教授

栗田禎子 千葉大学名誉教授

崎浜空音 慶應義塾大学学生

佐々木寛 新潟国際情報大学教授

申惠丰 青山学院大学教授

杉原浩司 武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表

鈴木達治郞 NPO法人ピースデポ代表

谷山博史 日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問

中野晃一 上智大学教授

根岸陽太 西南学院大学教授

畠山澄子  ピースボート共同代表 

前泊博盛 沖縄国際大学教授

https://heiwakosoken.org/
連絡先 平和構想研究会(事務局) shudantekijieiken@gmail.com

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